
六本木ヒルズ・森タワーの52階、東京シティビュー(外周側)と森アーツセンターギャラリー(内周側)の2つのギャラリーを使って、CHANEL presents la Galerie du 19M Tokyo が 2025年9月30日から開催されています。
この展覧会のキーワードはメティエダール(Métiers d’art)。「芸術的な手仕事」という意味になります。タイトルに含まれる le 19M(ル・ディズヌフ・エム、le dix-neuf M)はパリ19区と Métiers d’art の「M」を組み合わせた言葉で、シャネル(CHANEL)は2021年、パリ北東部、19区付近に le 19M を設立しました。傘下にある11のメゾンダール(Maison d’art、高度な職人技術を担う専門工房)を集約し、約700人の職人・専門家がここで仕事をしています。
la Galerie du 19M は施設の中にある展示ギャラリーのことで、それが東京にもやってきたという位置づけで開催されたのが今回の展覧会です。セネガルのダカールでも開催されており、2回目の国際プロジェクトです。東京展独自の日本のクリエーターによる作品や日本に ちなんだ作品なども展示されていました。

森タワー3階の美術館・ギャラリー専用ゲートから入り、エレベーターで52階へ昇ります。今回の展覧会は東京シティビューが全体の入り口になっていました。
最初の部屋には机が並べられています。一つ一つの机が le 19M に参加しているそれぞれのメゾンダールを示しています。東京の景色を眺められるこの場所に置かれた机は「ルサージュ アンテリユール(Lesage Intérieurs)」。家具や装飾品のための刺繍をデザイン、制作しているメゾンダールの机でした。このほかにも「メゾン ミッシェル(Maison Michel、帽子)」「マサロ(Massaro、靴)」などの机もありました。

le Rendez-vous(ランデブー)は畳の部屋が舞台です。半透明なふすまの刺繍が鮮やかです。ここでは手前の沓脱(くつぬぎ)台、畳も作品です。日本のクリエーター、工房が提供したものでした。

le Théâtre(シアター)は北西方向に広がるパノラマに面したエリアでした。「le 19Mのメゾンたち」というビデオが大型プロジェクターに映され、椅子に座って観ることができます。CHANEL のために用意されたお茶や小さい羊羹が販売され、このスペースでいただくこともできます。
目を引いたのは窓側に掲げられていた大きな作品。フランスの現代アーティスト、グザヴィエ ヴェイヤン(Xavier Veilhan)とle 19M のメゾンダールの一つ、モンテックス(Montex)によって制作された《眞秀(まほろ)の祝幕(いわいまく)》(Le Rideau de Maholo、2023年)です。生成りの布地にシルクのオーガンジー生地のパッチをモンテックスの刺繍技術で縫い合わせた作品です。2023年5月に寺嶋眞秀が歌舞伎座で初代尾上眞秀を名乗って勤めた初舞台の特別な引幕「祝幕」の一部でした。
尾上眞秀さんは祖父が尾上菊五郎さん、母が俳優の寺島しのぶさんです。父がフランス人アートディレクターのローラン・グナシアさんで、そのつながりでグザヴィエ ヴェイヤンさんに話しが持ち込まれ、シャネルが協力したということです。
祝幕は全体が縦5.3メートル、幅25.4メートル。機械でカットした約8900枚の直径12センチの円形パッチを縫い付けています。制作に約800時間を要したということです。全体を12分割してフランスで作成し、日本で一つにつなぎ合わせています。ここではそのうちの3枚が展示されていました。
この先のギャラリーショップでは図録や、紹介されていた作家たちの作品などが販売されていました。そして内周側の森アーツセンターギャラリーへと続きます。


le 19M に参加している刺繍・織物の工房「Lesage(ルサージュ)」は1924年設立で、それから100年の活動の回顧展となっていました。
会期は10月20日(月)まで。シャネルのファッションショーを支える職人の手仕事に、東京で実際に触れることができる貴重な機会でした。
(2025年9月30日)
