国立西洋美術館 前庭の下にある企画展示館

 国立西洋美術館は1959年に開館し、その20年後の1979年には本館の北側に新館が増築されました。さらに18年後の1997年には、本館前庭に設置されていた彫刻が一時撤去され、地下に企画展示館が新たに造られました。

 美術館の所蔵作品は、川崎造船所(現在の川崎重工業)の社長だった松方幸次郎がヨーロッパで収集した松方コレクションがベースになっています。そして、美術館の設立は、第2次世界大戦中の戦禍を逃れてフランスで保管されていた松方コレクションを、フランス政府が日本へ寄贈返還する際に提示した条件に基づいています。その条件とは、これらの美術品を所蔵・展示する美術館を新たに設置することでした。日本政府はフランスの建築家ル・コルビュジエに設計を依頼し、彼のアトリエで働いた経験を持つ日本の建築家3人が協力しました。その一人が前川國男で、後に新館と企画展示館の設計を担当しています。

 2017年、ル・コルビュジエが世界各地で設計した建築群が世界遺産に登録され、国立西洋美術館もその一つとなりました。ただし、登録を決議した世界遺産委員会は、ル・コルビュジエが構想していた前庭の姿が失われているという指摘を付け加えました。彫刻の配置が変わり、広範囲に植栽が施されるなど、開放的なパブリックスペースという彼の理念からかけ離れていたためとみられます。

 2020年から2022年にかけて、全館を一時閉館し、企画展示館の空調設備更新や防水工事を実施し、同時に前庭の復元工事も進められました。完全な元の形にはできませんでしたが、ロダンの《考える人》《カレーの人々》はほぼ元の位置に戻され、庭の敷石も存在するものは可能な限り開館当時の場所に据え直され、ル・コルビュジエの設計思想の多くの部分が反映されたと考えられています。

 現在の正面入口は、JR上野駅公園口に近い南側の柵の途中に設けられています。しかし、開館当初は上野公園の中心側(大噴水側)に向いた西側が正門として使われていました。その後いったん閉じられましたが、前庭整備を機に再び開放されました。

 ただし、かつて西側の門から正面に見えていたロダンの《地獄の門》は、現在では左側(北方向)にずれています。それがわかるのは、ル・コルビュジエが前庭に逆T字型に埋め込んだ石の線からです。この線は自然と本館入口へ導くように配置されています。延長線上は以前なら《地獄の門》でした。正門から入ってきた来場者が最初に鑑賞するのが《地獄の門》という仕掛けです。現在、その位置には後年に設置された《アダムとエヴァ》のエヴァ像が置かれています。地獄の門やアダムとエヴァはすでに免震工事が施され、移動が難しいためとみられます。

 線の途中には大きな竪穴が横にあります。上から見ると、企画展示館ロビーに掲げられる大型ポスターの裏面が見えます。空気の取り入れ口と非常時の階段を兼ねているようです。

 ところで、ル・コルビュジエは本館や前庭以外にも、企画館やコンサートホールを含む一大文化施設を構想していたようで、彼が描いたイラストにはそれらが示されています。イラストは美術館ショップ手前の防火扉にも描かれています。通り過ぎてしまいがちですが、足を止めて眺めてみるのもよいと思います。反対側の壁には、彼が提唱した、バランスのとれた美しい比率として知られるモデュロールの図も描かれています。

 現在、国立西洋美術館の南側には東京文化会館があります。これも前川國男が設計した音楽ホールの建物です。ル・コルビュジエのイラストとは配置が違いますが、彼が構想したコンサートホールを前川氏が実現したと考えると興味深いです。

(2025年11月26日)